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出家とその弟子

著者:倉田百三

しゅっけとそのでし - くらた ひゃくぞう

文字数:121,650 底本発行年:1917
著者リスト:
著者倉田 百三
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序章-章なし

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この戯曲を信心深きわが叔母上おばうえにささぐ

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[#ページの左右中央]

極重悪人唯称仏ごくじゅうあくにんゆいしょうぶつ 我亦在彼摂取中がやくざいひせっしゅちゅう

煩悩障眼雖不見ぼんのうしょうげんすいふけん 大悲無倦常照我だいひむげんじょうしょうが

(正信念仏偈)

[#改丁]

序曲

死ぬるもの

――ある日のまぼろし――

人間 (地上をあゆみつつ)わしは産まれた。 そして太陽の光を浴び、大気を呼吸して生きている。 ほんとに私は生きている。 見よ。 あのいい色の弓なりの空を。 そしてわしのこの素足がしっかりと踏みしめている黒土を。 はえしげる草木、飛び回る禽獣きんじゅう、さては女のめでたさ、子供の愛らしさ、あゝわしは生きたい生きたい。 (間)わしはきょうまでさまざまの悲しみを知って来た。 しかし悲しめば悲しむだけこの世が好きになる。 あゝ不思議な世界よ。 わしはお前に執着する。 愛すべき娑婆しゃばよ、わしは煩悩ぼんのうの林に遊びたい。 千年も万年も生きていたい。 いつまでも。 いつまでも。

かおおおいせる者 (あらわる)お前は何者じゃ。

人間 私は人間でございます。

顔蔽いせる者 では「死ぬるもの」じゃな。

人間 私は生きています。 私の知っているのはこれきりです。

顔蔽いせる者 お前はまたごまかしたな。

人間 私の父は死にました。 父の父も。 おゝ私の愛する隣人の多くも死にました。 しかし私が死ぬるとは思われません。

顔蔽いせる者 お前は甘えているな。

序章-章なし
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出家とその弟子 - 情報

出家とその弟子

しゅっけとそのでし

文字数 121,650文字

著者リスト:
著者倉田 百三

底本 出家とその弟子

親本 出家とその弟子

青空情報


底本:「出家とその弟子」岩波文庫、岩波書店
   1927(昭和2)年7月1日第1刷発行
   1962(昭和37)年8月16日第48刷改版発行
   1991(平成3)年6月5日第81刷発行
底本の親本:「出家とその弟子」岩波書店
   1917(大正6)年6月10日発行
初出:「生命の川 第一巻第二号〜第二巻第二号」
   1916(大正5)年11月16日〜1917(大正6)年3月5日
※初出誌掲載は第四幕第一場までです。
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2006年9月19日作成
2013年10月19日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:出家とその弟子

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