二百十日
著者:夏目漱石
にひゃくとおか - なつめ そうせき
文字数:29,368 底本発行年:1971
一
ぶらりと両手を
「どこへ行ったね」
「ちょっと、町を
「何か
「寺が一軒あった」
「それから」
「
「それから」
「
「
「やめて来た」
「そのほかに何もないかね」
「別段何もない。 いったい、寺と云うものは大概の村にはあるね、君」
「そうさ、人間の死ぬ所には必ずあるはずじゃないか」
「なるほどそうだね」と圭さん、首を
「それから
「どうも寺だけにしては、ちと、時間が長過ぎると思った。 馬の沓がそんなに珍しいかい」
「珍らしくなくっても、見たのさ。 君、あれに使う道具が幾通りあると思う」
「幾通りあるかな」
「あてて見たまえ」
「あてなくっても
「何でも七つばかりある」
「そんなにあるかい。 何と何だい」
「何と何だって、たしかにあるんだよ。
第一爪をはがす
「それから何があるかい」
「それから変なものが、まだいろいろあるんだよ。 第一馬のおとなしいには驚ろいた。 あんなに、削られても、刳られても平気でいるぜ」
「爪だもの。
人間だって、平気で爪を