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黄金餅

著者:三遊亭円朝

こがねもち - さんゆうてい えんちょう

文字数:4,881 底本発行年:2001
著者リスト:
著者三遊亭 円朝
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序章-章なし

ずツと昔時むかししば金杉橋かなすぎばしきは黄金餅こがねもち餅屋もちや出来できまして、一時ひとしきり大層たいそう流行はやつたものださうでござります。 ういふわけ黄金餅こがねもちなづけたかとまうすに、しば将監殿橋しやうげんどのばしきは極貧ごくひんの者ばかりがすん裏家うらやがござりまして金山寺屋きんざんじや金兵衛きんべゑまうす者の隣家となりるのが托鉢たくはつばうさんで源八げんぱちまうす者、近頃ちかごろいたしたのかわづらつて寝てるから見舞みまつてやらうと金兵衛きんべゑまゐり、金「御免ごめんなさいよ。 源「アヽ御入来おいでなさい。 ると煎餅せんべいのやうなうすつぺらの蒲団ふとんつめ引掻ひつかくとポロ/\あかおちる冷たさうな蒲団ふとんうへころがつてるが、独身者ひとりものだからくすりぷくせんじてむ事も出来できない始末しまつ、金「わつしはね今日けふはアノとほり朝からりましたので一にちらくようと思つて休んだが、うも困つたもんですね、なんですい病気は。 源「ハツ/\いえもう貴方あなた、年が年ですから死病しびやうなんでせう。 金「おまへさん其様そんな気の弱い事をつちやアいけませぬ、いし獅噛附しがみついてもなほらうと了簡れうけんなくツちやアいけませぬよ。 源「いえわつしはそら六十四ですもの。 金「ナニ八十になつても九十になつても生きてる人は生きてます、死にたいからつて死なれるものぢやないからしつかりしてなくツちやア。 源「有難ありがたぞんじます、毎度まいど御親切ごしんせつにお見舞みまひくだすつて。 金「おまへさん医者いしやかゝつたらうです。 源「いえかゝりませぬ。 金「其様そんことはないでさ、此奥このおく幸斎先生かうさいせんせい大層たいそう上手じやうずだてえから呼んでげませうか。 源「いえいけませぬ、いけませぬ、ハツ/\医者いしやかゝるのもうがすが、すぐ薬礼やくれいを取られるのが残念ですから。 金「医者いしやかゝれば是非ぜひ薬礼やくれいを取られますよしかそれいやなら買薬かひぐすりでもしなすつたら。 源「買薬かひぐすりだツて薬違くすりちがひでもすると大事おほごとになりますからまアしませう、それよりわつしべて見たいと思ふ物がありますがね。 金「なんです、遠慮ゑんりよなくうおひなさい、わつしが買つてげませう、何様どんな物がべたいんです、うもなんだツて沢山たんとべられやしますまい。 源「アノわつし大福餅だいふくもち今坂いまさかのやうなものをべて見たいのです。 金「餅気もちツけのものを沢山たんとくつちやア悪くはありませぬか。 源「いえ悪くつてもかまひませぬ。 金「ぢやア買つてませう、ふたつかみつつあればいんでせう。 源「いえ、何卒どうぞ三十ばかり。 金「其様そんなにへやアしませぬよ。 源「ナニへますから、願ひたいもので。 金「ぢやア買つてませう。 すぐかけたがもなく竹の皮包かはづゝみ二包ふたづゝみもつかへつてまゐり、金「サ買つてたよ。 源「アヽ、有難ありがたう。 金「サ、おんでげるからおべ、それだけはお見舞みまひかた/″\わつし御馳走ごちそうしてげるから。 源「ハツ/\うも御親切ごしんせつ有難ありがたぞんじます、何卒どうか貴方あなたたくかへつてくださいまし。 金「かへらんでもいからおあがりな、わつしの見てめえで。 源「それがいけないので、わつし子供こども時分じぶんから、人の見てまいでは物ははれない性分しやうぶんですから、何卒どうぞかへつて下さい、お願ひでございますから。 金「あい、ぢやアかへるよ、用があつたらお呼びよ、すぐるから。 金兵衛きんべゑたくかへつたが考へた。 金「はてな、坊主ばうずめうな事をふて、人の見てまいでは物がはれないなんて、全体ぜんたいアノ坊主ばうず大変たいへんけちかねためやつだとふ事を聞いてるが、アヽやつ屹度きつとものはうとするとボーと火かなに燃上もえあがるにちげえねえ、一ばん見たいもんだな、食物くひものからもえところを、ウム、さいはかべが少し破れてる、うやつて火箸ひばしツついて、ブツ、ヤー這出はひだして竹の皮をひろげやアがつた、アレだけ悉皆みんなつちまうのか知ら。 見てるとも知らず源八げんぱちもち取上とりあげ二ツにわつなかあん繰出くりだし、あんあんもちもち両方りやうはう積上つみあげまして、突然とつぜん懐中ふところ突込つツこしばらくムグ/\やつてたが、ズル/\ツと扱出こきだしたは御納戸おなんどだかむらさきだか色気いろけわからぬやうになつたふる胴巻どうまきやうなもの取出とりだしクツ/\とくとなかから反古紙ほごがみつつんだかたまりました。 これとつてウームと力任ちからまかせにやぶるとザラ/\/\とたのが古金こきん彼此かれこれ五六十りやうもあらうかとおもはれるほど、金「おゝ金子かねだ、大層たいそうつてやアがるナ、もう死ぬとふのでおれ見舞みめえつてやつたから、金兵衛きんべゑさんにこれだけ残余あとはお長家ながやしゆうへツて、施与ほどこしでもするのから、いまこゝおれくとなほ沢山たんともらへるわけだが。 と見てるとかね七八なゝやツつづゝ大福餅だいふくもちなかうへからあんもちふたをいたしてギユツと握固にぎりかためては口へ頬張ほゝばしろくろにして呑込のみこんでる。 金「ア、あれくひやアがる、うもひどやつだナあれ/\。 と見てうちたちまち五六十りやう金子かね鵜呑うのみにしたからたまらない、悶掻もがき※(「廴+囘」、第4水準2-12-11)まはつて苦しみ出し。 源「ウーンウーン金兵衛きんべゑさん、金兵衛きんべゑさん。

序章-章なし
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黄金餅 - 情報

黄金餅

こがねもち

文字数 4,881文字

著者リスト:

底本 明治の文学 第3巻 三遊亭円朝

青空情報


底本:「明治の文学 第3巻 三遊亭円朝」筑摩書房
   2001(平成13)年8月25日初版第1刷発行
底本の親本:「定本 円朝全集 巻の13」世界文庫
   1964(昭和39)年6月発行
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2009年8月14日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:黄金餅

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