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「ああしんど」

著者:池田蕉園

「ああしんど」 - いけだ しょうえん

文字数:651 底本発行年:1911
著者リスト:
著者池田 蕉園
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序章-章なし

よっぽど古いお話なんで御座ございますよ。 私の祖父じじいの子供の時分に居りました、「さん」という猫なんで御座ございます。 三毛みけだったんで御座ございますって。

何でも、あの、その祖父じじいの話に、おばあさんがお嫁に来る時に――祖父じじいのお母さんなんで御座ございましょうねえ――泉州堺せんしゅうさかいから連れて来た猫なんで御座いますって。

随分ずいぶん永く――家に十八年も居たんで御座ございますよ。 大きくなっておりましたそうです。 もう、耳なんか、厚ぼったく、五ぐらいになっていたそうで御座ございますよ。 もう年をってしまっておりましたから、まるで御隠居様のようになっていたんで御座ございましょうね。

冬、炬燵こたつの上にまあるくなって、ていたんで御座ございますって。

そして、のびをしまして、にゅっと高くなって、

「ああしんど」と言ったんだそうで御座ございますよ。

屹度きっと曾祖母おおばあさんは、炬燵こたつあたって、眼鏡を懸けて、本でも見ていたんで御座ございましょうね。

で、吃驚びつくり致しまして、この猫は屹度きっと化けると思ったんです。 それから、捨てようと思いましたけれども、幾ら捨てても帰って来るんで御座ごぎいますって。 でも大人おとなしくて、なんにも悪い事はあるんじゃありませんけれども、私の祖父じじいは、「口を利くから、怖くって怖くって、仕方がなかった。」 って言っておりましたよ。

祖父じじいは私共の知っておりました時分でも、猫は大嫌いなんで御座ございます。 私共が所好すきで飼っておりましても、

「猫は化けるからな」と言ってるんで御座ございます。

で、祖父じじいは、猫をあんまり可愛かあいがっちゃ、けないけないって言っておりましたけれど、そのの猫は化けるまで居た事は御座ございません。

序章-章なし
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「ああしんど」 - 情報

「ああしんど」

「ああしんど」

文字数 651文字

著者リスト:
著者池田 蕉園

底本 文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会

親本 新小説 明治四十四年十二月号

青空情報


底本:「文豪怪談傑作選・特別篇 百物語怪談会」ちくま文庫、筑摩書房
   2007(平成19)年7月10日第1刷発行
底本の親本:「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂
   1911(明治44)年12月
初出:「新小説 明治四十四年十二月号」春陽堂
   1911(明治44)年12月
入力:門田裕志
校正:noriko saito
2008年9月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:「ああしんど」

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