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あし

著者:新美南吉

あし - にいみ なんきち

文字数:852 底本発行年:1988
著者リスト:
著者新美 南吉
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序章-章なし

二ひきの馬が、まどのところでぐうるぐうるとひるねをしていました。

すると、すずしい風がでてきたので、一ぴきがくしゃめをしてめをさましました。

ところが、あとあしがいっぽんしびれていたので、よろよろとよろけてしまいました。

「おやおや。」

そのあしに力をいれようとしても、さっぱりはいりません。

そこでともだちの馬をゆりおこしました。

「たいへんだ、あとあしをいっぽん、だれかにぬすまれてしまった。」

「だって、ちゃんとついてるじゃないか。」

「いやこれはちがう。 だれかのあしだ。」

「どうして。」

「ぼくの思うままに歩かないもの。 ちょっとこのあしをけとばしてくれ。」

そこで、ともだちの馬は、ひづめでそのあしをぽォんとけとばしました。

「やっぱりこれはぼくのじゃない、いたくないもの。 ぼくのあしならいたいはずだ。 よし、はやく、ぬすまれたあしをみつけてこよう。」

そこで、その馬はよろよろと歩いてゆきました。

「やァ、椅子いすがある。 椅子がぼくのあしをぬすんだのかもしれない。 よし、けとばしてやろう、ぼくのあしならいたいはずだ。」

馬はかたあしで、椅子のあしをけとばしました。

椅子は、いたいとも、なんともいわないで、こわれてしまいました。

馬は、テーブルのあしや、ベッドのあしを、ぽんぽんけってまわりました。 けれど、どれもいたいといわなくて、こわれてしまいました。

いくらさがしてもぬすまれたあしはありません。

「ひょっとしたら、あいつがとったのかもしれない。」

と馬は思いました。

そこで、馬はともだちの馬のところへかえってきました。 そして、すきをみて、ともだちのあとあしをぽォんとけとばしました。

するとともだちは、

「いたいッ。」

とさけんでとびあがりました。

「そォらみろ、それがぼくのあしだ。 きみだろう、ぬすんだのは。」

「このとんまめが。」

ともだちの馬は力いっぱいけかえしました。

しびれがもうなおっていたので、その馬も、

「いたいッ。」

序章-章なし
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あし - 情報

あし

あし

文字数 852文字

著者リスト:
著者新美 南吉

底本 ごんぎつね 新美南吉童話作品集1

親本 校定 新美南吉全集

青空情報


底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
底本の親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:めいこ
校正:もりみつじゅんじ
2002年12月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:あし

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