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もみの木

原題:GRANTRAEET

著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen

もみのき

文字数:11,606 底本発行年:1955
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序章-章なし

挿絵

まちそとのもりに、いっぽん、とてもかわいらしい、もみの木がありました。 そのもみの木は、いいところにはえていて、日あたりはよく、風とおしも十分じゅうぶんで、ちかくには、おなかまの大きなもみの木や、はりもみの木が、ぐるりを、とりまいていました。 でもこの小さなもみの木は、ただもう大きくなりたいと、そればっかりねがっていました。 ですから森のなかであたたかいお日さまの光のあたっていることや、すずしい風の吹くことなどは、なんともおもっていませんでした。 また黒いちごや、オランダいちごをつみにきて、そこいらじゅうおもしろそうにかけまわって、べちゃくちゃおしゃべりしている百姓のこどもたちも、気にかからないようでした。 こどもたちは、つぼいっぱい、いちごにしてしまうと、そのあとのいちごは、わらでつないで、ほっとして、小さいもみの木のそばに、こしをおろしました。 そして

「やあ、ずいぶんかわいいもみの木だなあ。」

と、いいいいしました。 けれど、そんなことをいわれるのが、このもみの木は、いやで、いやで、なりませんでした。

つぎの年、もみの木は新芽しんめひとつだけはっきりのび、そのつぎの年には、つづいてまた芽ひとつだけ大きくなりました。 そんなふうで、もみの木のとしは、まいねんふえてゆくふしのかずを、かぞえて見ればわかりました。

小さいもみの木は、ためいきをついて、こういいました。

「わたしも、ほかの木のように大きかったら、さぞいいだろうなあ。 そうすれば、えだをうんとのばして、たかいこずえの上から、ひろい世のなかを、見わたすんだけど。 そうなれば、鳥はわたしの枝にをかけるだろうし、風がふけば、ほかの木のように、わたしも、おうように、こっくりこっくりしてみせてやるのだがなあ。」

こんなふうでしたから、もみの木は、お日さまの光を見ても、とぶ鳥を見ても、それから、あさゆう、あたまの上をすうすうながれていく、ばらいろの雲を見ても、ちっともうれしくありませんでした。

やがて冬になりました。 ほうぼう雪が白くつもって、きらきらかがやきました。 するとどこからか一ぴきの野うさぎが、まい日のように来て、もみの木のあたまをとびこえとびこえしてあそびました。 ――ああ、じつにいやだったらありません。 ――でも、それからのち、ふた冬とおりこすと、もみの木はかなり、せいが高くなりましたから、うさぎはもうただ、そのまわりを、ぴょんぴょん、はねまわっているだけでした。

「ああうれしい。 だんだんそだっていって、今に大きな年をとった木になるんだ。 世のなかにこんなにすばらしいことはない。」

もみの木は、こんなことをかんがえていました。

秋になると、いつも木こりがやって来て、いちばん大きい木を二、三本きりだします。 これは、まい年のおきまりでした。 そのときは、見あげるほど高い木が、どしんという大きな音をたてて、地面じめんの上にたおされました。 そして枝をきりおとされ、ふといみきのかわをはがれ、まるはだかの、ほそっこいものにされて、とうとう、木だかなんだかわけのわからないものになると、この若いもみの木は、それをみてこわがってふるえました。 けれども、それが荷車にぐるまにつまれて、馬にひかれて、森を出ていくとき、もみの木はこうひとりごとをいって、ふしぎがっていました。

みんな、どこへいくんだろう。 いったいどうなるんだろう。

春になって、つばめと、こうのとりがとんで来たとき、もみの木はさっそくそのわけをたずねました。

「ねえ、ほんとにどこへつれて行かれたんでしょうね。 あなたがた。 とちゅうでおあいになりませんでしたか。」

つばめはなんにもしりませんでした。

序章-章なし
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もみの木 - 情報

もみの木

もみのき

文字数 11,606文字

著者リスト:

底本 新訳アンデルセン童話集第二巻

青空情報


底本:「新訳アンデルセン童話集第二巻」同和春秋社
   1955(昭和30)年7月15日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:もみの木

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