台川
著者:宮沢賢治
だいがわ - みやざわ けんじ
文字数:7,665 底本発行年:1980
〔もうでかけませう。 〕たしかに光がうごいてみんな立ちあがる、腰をおろしたみじかい草、かげろふか何かゆれてゐる、かげろふぢゃない、網膜が感じただけのその光だ、
〔さあでかけませう。
行きたい人だけ。
〕まだ来ないものは仕方ない。
さっきからもう二十分も待ったんだ。
もっともこのみちばたの青いいろの寄宿舎はゆっくりして
これから又こゝへ一返帰って十一時には向ふの宿へつかなければいけないんだ。
「何処さ行ぐのす。」
さうだ、
おとなしい新らしい白、緑の中だから、そして外光の中だから大へんいゝんだ。
「私はこゝで待ってますから。」
校長だ。
校長は
〔はあ、では一寸行って参ります。 〕木の青、木の青、空の雲は今日も甘酸っぱく、足なみのゆれと光の波。 足なみのゆれと光の波。
粘土のみちだ。 乾いてゐる。 黄色だ。 みち。 粘土。
小松と林。 林の明暗いろいろの緑。 それに生徒はみんな新鮮だ。
そしてさうだ、向ふの
よしうまい。
〔向ふの崖をごらんなさい。 黒くて少し浮き出した柱のやうな岩があるでせう。 あれは水成岩の割れ目に押し込んで来た火山岩です。 黒曜石です。 〕ダイクと云はうかな。 いゝや岩脈がいゝ。 〔あゝいふのを岩脈といひます。