月夜のでんしんばしら
著者:宮沢賢治
つきよのでんしんばしら - みやざわ けんじ
文字数:4,254 底本発行年:1990
ある晩、恭一はぞうりをはいて、すたすた鉄道線路の横の平らなところをあるいて
たしかにこれは
ところがその晩は、線路見まわりの工夫もこず、窓から棒の出た汽車にもあいませんでした。 そのかわり、どうもじつに変てこなものを見たのです。
九日の月がそらにかかっていました。 そしてうろこ雲が空いっぱいでした。 うろこぐもはみんな、もう月のひかりがはらわたの底までもしみとおってよろよろするというふうでした。 その雲のすきまからときどき冷たい星がぴっかりぴっかり顔をだしました。
恭一はすたすたあるいて、もう向うに
とつぜん、右手のシグナルばしらが、がたんとからだをゆすぶって、上の白い横木を
つまりシグナルがさがったというだけのことです。
一晩に
ところがそのつぎが大へんです。
さっきから線路の左がわで、ぐゎあん、ぐゎあんとうなっていたでんしんばしらの列が
うなりもだんだん高くなって、いまはいかにも
「ドッテテドッテテ、ドッテテド、
でんしんばしらのぐんたいは
はやさせかいにたぐいなし
ドッテテドッテテ、ドッテテド
でんしんばしらのぐんたいは
きりつせかいにならびなし。」
一本のでんしんばしらが、ことに
みると向うの方を、六本うで木の二十二の瀬戸もののエボレットをつけたでんしんばしらの列が、やはりいっしょに軍歌をうたって進んで行きます。
「ドッテテドッテテ、ドッテテド
二本うで木の工兵隊
六本うで木の
ドッテテドッテテ、ドッテテド
いちれつ一万五千人
はりがねかたくむすびたり」
どういうわけか、二本のはしらがうで木を組んで、びっこを引いていっしょにやってきました。
そしていかにもつかれたようにふらふら頭をふって、それから口をまげてふうと息を
するとすぐうしろから来た元気のいいはしらがどなりました。
「おい、はやくあるけ。 はりがねがたるむじゃないか。」
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月夜のでんしんばしら - 情報
青空情報
底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
1990(平成2)年5月25日発行
1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:月夜のでんしんばしら