注文の多い料理店
著者:宮沢賢治
ちゅうもんのおおいりょうりてん - みやざわ けんじ
文字数:5,400 底本発行年:1990
二人の若い
「ぜんたい、ここらの山は
「
それはだいぶの山奥でした。 案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。
それに、あんまり山が
「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬の
「ぼくは二千八百円の損害だ。」 と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。
はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。
「ぼくはもう
「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹は
「そいじゃ、これで切りあげよう。
なあに戻りに、
「
ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。
風がどうと
「どうも腹が空いた。 さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」
「ぼくもそうだ。 もうあんまりあるきたくないな。」
「あるきたくないよ。 ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」
「
二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。
その時ふとうしろを見ますと、立派な
そして
RESTAURANT
西洋料理店
WILDCAT HOUSE
山猫軒
という札がでていました。
「君、ちょうどいい。 ここはこれでなかなか開けてるんだ。