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注文の多い料理店

著者:宮沢賢治

ちゅうもんのおおいりょうりてん - みやざわ けんじ

文字数:5,400 底本発行年:1990
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

二人の若い紳士しんしが、すっかりイギリスの兵隊のかたちをして、ぴかぴかする鉄砲てっぽうをかついで、白熊しろくまのような犬を二ひきつれて、だいぶ山奥やまおくの、木の葉のかさかさしたとこを、こんなことをいながら、あるいておりました。

「ぜんたい、ここらの山はしからんね。 鳥もけものも一疋も居やがらん。 なんでも構わないから、早くタンタアーンと、やって見たいもんだなあ。」

鹿しかの黄いろな横っ腹なんぞに、二三発お見舞みまいもうしたら、ずいぶん痛快だろうねえ。 くるくるまわって、それからどたっとたおれるだろうねえ。」

それはだいぶの山奥でした。 案内してきた専門の鉄砲打ちも、ちょっとまごついて、どこかへ行ってしまったくらいの山奥でした。

それに、あんまり山が物凄ものすごいので、その白熊のような犬が、二疋いっしょにめまいを起こして、しばらくうなって、それからあわいて死んでしまいました。

「じつにぼくは、二千四百円の損害だ」と一人の紳士が、その犬のぶたを、ちょっとかえしてみて言いました。

「ぼくは二千八百円の損害だ。」 と、もひとりが、くやしそうに、あたまをまげて言いました。

はじめの紳士は、すこし顔いろを悪くして、じっと、もひとりの紳士の、顔つきを見ながら云いました。

「ぼくはもうもどろうとおもう。」

「さあ、ぼくもちょうど寒くはなったし腹はいてきたし戻ろうとおもう。」

「そいじゃ、これで切りあげよう。 なあに戻りに、昨日きのうの宿屋で、山鳥を拾円じゅうえんも買って帰ればいい。」

うさぎもでていたねえ。 そうすれば結局おんなじこった。 では帰ろうじゃないか」

ところがどうも困ったことは、どっちへ行けば戻れるのか、いっこうに見当がつかなくなっていました。

風がどうといてきて、草はざわざわ、木の葉はかさかさ、木はごとんごとんと鳴りました。

「どうも腹が空いた。 さっきから横っ腹が痛くてたまらないんだ。」

「ぼくもそうだ。 もうあんまりあるきたくないな。」

「あるきたくないよ。 ああ困ったなあ、何かたべたいなあ。」

べたいもんだなあ」

二人の紳士は、ざわざわ鳴るすすきの中で、こんなことを云いました。

その時ふとうしろを見ますと、立派な一軒いっけんの西洋造りの家がありました。

そして玄関げんかんには

RESTAURANT

西洋料理店

WILDCAT HOUSE

山猫軒

という札がでていました。

「君、ちょうどいい。 ここはこれでなかなか開けてるんだ。

序章-章なし
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注文の多い料理店 - 情報

注文の多い料理店

ちゅうもんのおおいりょうりてん

文字数 5,400文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 注文の多い料理店

青空情報


底本:「注文の多い料理店」新潮文庫、新潮社
   1990(平成2)年5月25日発行
   1997(平成9)年5月10日17刷
初出:「イーハトヴ童話 注文の多い料理店」盛岡市杜陵出版部・東京光原社
   1924(大正13)年12月1日
入力:土屋隆
校正:noriko saito
2005年1月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:注文の多い料理店

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