故郷
著者:魯迅
こきょう - ろじん
文字数:8,041 底本発行年:1932
わたしは厳寒を冒して、二千余里を隔て二十余年も別れていた故郷に帰って来た。
時はもう冬の
おお! これこそ二十年来ときどき想い出す我が故郷ではないか。
わたしの想い出す故郷はまるきり、こんなものではない。
わたしの故郷はもっと
わたしどもが永い間身内と一緒に棲んでいた老屋がすでに公売され、家を明け渡す期限が本年一ぱいになっていたから、ぜひとも正月元日前に
わたしは二日目の朝早く我が家の門口に
母は非常に喜んだ。 何とも言われぬ淋しさを押包みながら、お茶を入れて、話をよそ事に紛らしていた。 宏兒は今度初めて逢うので遠くの方へ突立って真正面からわたしを見ていた。
わたしどもはとうとう家移りのことを話した。
「あちらの家も借りることに
「それがいいよ。
わたしもそう思ってね。
こんな話をしたあとで母は語を継いだ。
「お前さんは久しぶりで来たんだから、本家や親類に暇乞いを済まして、それから出て行くことにしましょう」
「ええそうしましょう」
「あの
「今度
「おお、閏土! ずいぶん昔のことですね」
この時わたしの頭の中に一つの神さびた画面が閃き出した。
この少年が閏土であった。
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故郷 - 情報
青空情報
底本:「魯迅全集」改造社
1932年(昭和7年)11月18日発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「彼奴→あいつ 貴郎→あなた 或→ある 所謂→いわゆる 薄ら→うすら 曽て→かつて 兼ね→かね かも知れない→かもしれない 屹度→きっと 切り→きり 位→ぐらい 呉れ→くれ 極く→ごく 此→この 此処→ここ 之れ→これ 宛ら→さながら 然し→しかし 随分→ずいぶん 是非→ぜひ 其→その 沢山→たくさん 慥か→たしか 只→ただ 忽ち→たちまち 多分→たぶん 丁度→ちょうど 一寸→ちょっと 就いて→ついて て置く→ておく て仕舞う→てしまう 尚お→なお 中々→なかなか 許り→ばかり 甚だ→はなはだ 外でもない→ほかでもない 先ず→まず 益々→ますます 又・亦→また 未だ→まだ 丸切り→まるきり 丸で→まるで 矢張り→やはり」
※底本は総ルビですが、一部を省きました。
入力:京都大学電子テクスト研究会入力班(加藤祐介)
校正:京都大学電子テクスト研究会校正班(大久保ゆう)
2004年3月21日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:故郷