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赤とんぼ

著者:新美南吉

あかとんぼ - にいみ なんきち

文字数:2,956 底本発行年:1980
著者リスト:
著者新美 南吉
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序章-章なし

赤とんぼは、三回ほど空をまわって、いつも休む一本の垣根かきねの竹の上に、チョイととまりました。

山里の昼は静かです。

そして、初夏の山里は、真実ほんとうに緑につつまれています。

赤とんぼは、クルリと眼玉めだまてんじました。

赤とんぼの休んでいる竹には、朝顔あさがおのつるがまきついています。 昨年さくねんの夏、この別荘べっそうの主人がえていった朝顔の結んだ実が、またえたんだろう――と赤とんぼは思いました。

今はこの家にはだれもいないので、雨戸がさびしくしまっています。

赤とんぼは、ツイと竹の先からからだをはなして、高い空にい上がりました。

三四人の人が、こっちへやって来ます。

赤とんぼは、さっきの竹にまたとまって、じっと近づいて来る人々を見ていました。

一番最初にかけて来たのは、赤いリボンの帽子ぼうしをかぶったかあいいおじょうちゃんでした。 それから、おじょうちゃんのお母さん、荷物にもつをドッサリ持った書生しょせいさん――と、こう三人です。

赤とんぼは、かあいいおじょうちゃんの赤いリボンにとまってみたくなりました。

でも、おじょうちゃんがおこるとこわいな――と、赤とんぼは頭をかたげました。

けど、とうとう、おじょうちゃんが前へ来たとき、赤とんぼは、おじょうちゃんの赤いリボンに飛びうつりました。

「あッ、おじょうさん、帽子ぼうしに赤とんぼがとまりましたよ。」 と、書生さんがさけびました。

赤とんぼは、今におじょうちゃんの手が、自分をつかまえに来やしないかと思って、すぐ飛ぶ用意をしました。

しかし、おじょうちゃんは、赤とんぼをつかまえようともせず、

「まア、あたしの帽子ぼうしに! うれしいわ!」といって、うれしさにび上がりました。

つばくらが、風のようにかけて行きます。

かあいいおじょうちゃんは、今まで空家あきやだったその家に住みこみました。 もちろん、お母さんや書生しょせいさんもいっしょです。

赤とんぼは、今日も空をまわっています。

夕陽ゆうひが、そのはねをいっそう赤くしています。

「とんぼとんぼ

赤とんぼ

すすきの中は

あぶないよ」

あどけない声で、こんな歌をうたっているのが、聞こえて来ました。

赤とんぼは、あのおじょうちゃんだろうと思って、そのまま、声のする方へ飛んで行きました。

思った通り、うたってるのは、あのおじょうちゃんでした。

おじょうちゃんは、庭で行水ぎょうずいをしながら、一人うたってたのです。

赤とんぼが、頭の上へ来ると、おじょうちゃんは、持ってたおもちゃの金魚をにぎったまま、

「あたしの赤とんぼ!」とさけんで、両手を高くさし上げました。

赤とんぼは、とても愉快ゆかいです。

書生しょせいさんが、シャボンを持ってやって来ました。

「おじょうさん、背中せなかあらいましょうか?」

「いや――」

序章-章なし
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赤とんぼ - 情報

赤とんぼ

あかとんぼ

文字数 2,956文字

著者リスト:
著者新美 南吉

底本 ごんぎつね 新美南吉童話作品集1

親本 校定 新美南吉全集2

青空情報


底本:「ごんぎつね 新美南吉童話作品集1」てのり文庫、大日本図書
   1988(昭和63)年7月8日第1刷発行
親本:「校定 新美南吉全集」大日本図書
入力:もりみつじゅんじ
校正:鈴木厚司
2003年5月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:赤とんぼ

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