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野のはくちょう

原題:DE VILDE SVANER

著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen

ののはくちょう

文字数:20,252 底本発行年:1955
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序章-章なし

挿絵

ここからは、はるかな国、冬がくるとつばめがとんで行くとおい国に、ひとりの王さまがありました。 王さまには十一人のむすこと、エリーザというむすめがありました。 十一人の男のきょうだいたちは、みんな王子で、胸に星のしるしをつけ、腰に剣をつるして、学校にかよいました。 金のせきばんの上に、ダイヤモンドの石筆せきひつで字をかいて、本でよんだことは、そばからあんしょうしました。

この男の子たちが王子だということは、たれにもすぐわかりました。 いもうとのエリーザは、鏡ガラスのちいさな腰掛に腰をかけて、ねだんにしたらこの王国の半分ぐらいもねうちのある絵本をみていました。

ああ、このこどもたちはまったくしあわせでした。 でもものごとはいつでもおなじようにはいかないものです。

この国のこらずの王さまであったおとうさまは、わるいおきさきと結婚なさいました。 このお妃がまるでこどもたちをかわいがらないことは、もうはじめてあったその日からわかりました。 ご殿じゅうこぞって、たいそうなお祝の宴会がありました。 こどもたちは「お客さまごっこ」をしてあそんでいました。 でも、いつもしていたように、こどもたちはお菓子や焼きりんごをたくさんいただくことができませんでした。 そのかわりにお茶わんのなかに砂を入れて、それをごちそうにしておあそびといいつけられました。

その次の週には、お妃はちいちゃないもうと姫のエリーザを、いなかへ連れていって、お百姓の夫婦にあずけました。 そうしてまもなくお妃はかえって来て、こんどは王子たちのことでいろいろありもしないことを、王さまにいいつけました。 王さまも、それでもう王子たちをおかまいにならなくなりました。

「どこの世界へでもとんでいって、おまえたち、じぶんでたべていくがいい。」 と、わるいお妃はいいました。 「声のでない大きな鳥にでもなって、とんでいっておしまい。」

でも、さすがにお妃ののろったほどのひどいことにも、なりませんでした。 王子たちは十一羽のみごとな野の白鳥はくちょうになったのです。 きみょうななき声をたてて、このはくちょうたちは、ご殿の窓をぬけて、おにわを越して、森を越して、とんでいってしまいました。

さて、夜のすっかり明けきらないまえ、はくちょうたちは、妹のエリーザが、百姓家のへやのなかで眠っているところへ来ました。 ここまできて、はくちょうたちは屋根の上をとびまわって、ながい首をまげて、羽根をばたばたやりました。 でも、たれもその声をきいたものもなければ、その姿をみたものもありませんでした。 はくちょうたちは、しかたがないので、また、どこまでもとんでいきました。 上へ上へと、雲のなかまでとんでいきました。 とおくとおく、ひろい世界のはてまでもとんでいきました。 やがて、海ばたまでずっとつづいている大きなくろい森のなかまでも、はいっていきました。

かわいそうに、ちいさいエリーザは百姓家のひとにぽつねんとひとりでいて、ほかになにもおもちゃにするものがありませんでしたから、一枚の青い葉ッぱをおもちゃにしていました。 そして、葉のなかにあなをぽつんとあけて、その孔からお日さまをのぞきました。 それはおにいさまたちのすんだきれいな目をみるような気がしました。 あたたかいお日さまがほおにあたるたんびに、おにいさまたちがこれまでにしてくれた、のこらずのせっぷんをおもい出しました。

きょうもきのうのように、毎日、毎日、すぎていきました。 家のぐるりのいけ垣を吹いて、風がとおっていくとき、風はそっとばらにむかってささやきました。

「おまえさんたちよりも、もっときれいなものがあるかしら。」

けれどもばらは首をふって、

序章-章なし
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野のはくちょう - 情報

野のはくちょう

ののはくちょう

文字数 20,252文字

著者リスト:

底本 新訳アンデルセン童話集第一巻

青空情報


底本:「新訳アンデルセン童話集第一巻」同和春秋社
   1955(昭和30)年7月20日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:秋鹿
2006年1月18日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:野のはくちょう

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