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小夜啼鳥

原題:NATTERGALEN

著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen

さよなきどり

文字数:12,769 底本発行年:1955
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序章-章なし

挿絵1

みなさん、よくごぞんじのように、シナでは、皇帝はシナ人で、またそのおそばづかえのひとたちも、シナ人です。

さて、このお話は、だいぶ昔のことなのですがそれだけに、たれもわすれてしまわないうち、きいておくねうちもあろうというものです。

ところで、そのシナの皇帝の御殿ごてんというのは、どこもかしこも、みごとな、せとものずくめでして、それこそ、世界一きらびやかなものでした。

なにしろ、とても大したお金をかけて、ぜいたくにできているかわり、こわれやすくて、うっかりさわると、あぶないので、よほどきをつけてそのそばをとおらなければなりません。 御苑ぎょえんにはまた、およそめずらしい、かわり種の花ばかりさいていました。 なかでもうつくしい花には、そばをとおるものが、いやでもそれにきのつくように、りりりといいになるぎんのすずがつけてありました。 ほんとうに、皇帝の御苑は、なにからなにまでじょうずにくふうがこらしてあって、それに、はてしなくひろいので、おかかえの庭作にわづくりでも、いったいどこがさかいなのか、よくはわからないくらいでした。 なんでもかまわずどこまでもあるいて行くと、りっぱな林にでました。 そこはたかい木立こだちがあって、そのむこうに、ふかいみずうみをたたえていました。 林をではずれるとすぐ水で、そこまでのえだがのびているみぎわちかく、をかけたまま、大きなふねをこぎよせることもできました。

さて、この林のなかに、うつくしいこえでうたう、一のさよなきどりがすんでいましたが、そのなきごえがいかにもいいので、日びのいとなみにおわれているまずしい漁師りょうしですらも、晩、あみをあげにでていって、ふと、このことりのうたが耳にはいると、ついたちどまって、ききほれてしまいました。

「どうもたまらない。 なんていいこえなんだ。」 と、漁師はいいましたが、やがてしごとにかかると、それなり、さよなきどりのこともわすれていました。 でもつぎのばん、さよなきどりのうたっているところへ、漁師がまた網にでてきました。 そうして、またおなじことをいいました。

「どうもたまらない、なんていいこえなんだ。」

せかいじゅうのくにぐにから、旅行者りょこうしゃが皇帝のみやこにやってきました。 そうして、皇帝の御殿と御苑のりっぱなのにかんしんしましたが、やはり、このさよなきどりのうたをきくと、口をそろえて、

「どうもこれがいっとうだな。」 といいました。 で、旅行者たちは、国にかえりますと、まずことりのはなしをしました。 学者たちは、その都と御殿と御苑のことをいろいろと本にかきました。 でもさよなきどりのことはけっして忘れないどころか、この国いちばんはこれだときめてしまいました。 それから、詩のつくれるひとたちは、深いみずうみのほとりの林にうたう、さよなきどりのことばかりを、この上ないうつくしい詩につくりました。

こういう本は、世界じゅうひろまって、やがてそのなかの二三冊は、皇帝のお手もとにとどきました。 皇帝は金のいすにこしをかけて、なんべんもなんべんもおよみになって、いちいちわが意をえたりというように、うなずかれました。 ごじぶんの都や御殿や御苑のことを、うつくしい筆でしるしているのをよむのは、なるほどたのしいことでした。

「さはいえど、なお、さよなきどりこそ、こよなきものなれ。」 と、そのあとにしかし、ちゃんとかいてありました。

「はてな。」 と、皇帝は首をおかしげになりました。 「さよなきどりというか。 そんな鳥のいることはとんとしらなかった。 そんな鳥がこの帝国のうちに、しかも、この庭うちにすんでいるというのか。 ついきいたこともなかったわい。 それほどのものを、本でよんではじめてしるとは、いったいどうしたことだ。」

そこで皇帝は、さっそく侍従長じじゅうちょうをおめしになりました。

序章-章なし
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小夜啼鳥 - 情報

小夜啼鳥

さよなきどり

文字数 12,769文字

著者リスト:

底本 新訳アンデルセン童話集 第二巻

青空情報


底本:「新訳アンデルセン童話集 第二巻」同和春秋社
   1955(昭和30)年7月15日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※底本中、*で示された語句の訳註は、当該語句のあるページの下部に挿入されていますが、このファイルでは当該語句のある段落のあとに、5字下げで挿入しました。
入力:大久保ゆう
校正:鈴木厚司
2005年6月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:小夜啼鳥

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