小夜啼鳥
原題:NATTERGALEN
著者:ハンス・クリスティアン・アンデルセン Hans Christian Andersen
さよなきどり
文字数:12,769 底本発行年:1955
みなさん、よくごぞんじのように、シナでは、皇帝はシナ人で、またそのおそばづかえのひとたちも、シナ人です。
さて、このお話は、だいぶ昔のことなのですがそれだけに、たれもわすれてしまわないうち、きいておくねうちもあろうというものです。
ところで、そのシナの皇帝の
なにしろ、とても大したお金をかけて、ぜいたくにできているかわり、こわれやすくて、うっかりさわると、あぶないので、よほどきをつけてそのそばをとおらなければなりません。
さて、この林のなかに、うつくしいこえでうたう、一
「どうもたまらない。
なんていいこえなんだ。」
と、漁師はいいましたが、やがてしごとにかかると、それなり、さよなきどりのこともわすれていました。
でもつぎの
「どうもたまらない、なんていいこえなんだ。」
せかいじゅうのくにぐにから、
「どうもこれがいっとうだな。」 といいました。 で、旅行者たちは、国にかえりますと、まずことりのはなしをしました。 学者たちは、その都と御殿と御苑のことをいろいろと本にかきました。 でもさよなきどりのことはけっして忘れないどころか、この国いちばんはこれだときめてしまいました。 それから、詩のつくれるひとたちは、深いみずうみのほとりの林にうたう、さよなきどりのことばかりを、この上ないうつくしい詩につくりました。
こういう本は、世界じゅうひろまって、やがてそのなかの二三冊は、皇帝のお手もとにとどきました。 皇帝は金のいすにこしをかけて、なんべんもなんべんもおよみになって、いちいちわが意をえたりというように、うなずかれました。 ごじぶんの都や御殿や御苑のことを、うつくしい筆でしるしているのをよむのは、なるほどたのしいことでした。
「さはいえど、なお、さよなきどりこそ、こよなきものなれ。」 と、そのあとにしかし、ちゃんとかいてありました。
「はてな。」 と、皇帝は首をおかしげになりました。 「さよなきどりというか。 そんな鳥のいることはとんとしらなかった。 そんな鳥がこの帝国のうちに、しかも、この庭うちにすんでいるというのか。 ついきいたこともなかったわい。 それほどのものを、本でよんではじめてしるとは、いったいどうしたことだ。」
そこで皇帝は、さっそく