ヘンゼルとグレーテル
原題:Hansel und Gretel
著者:グリム兄弟 Bruder Grimm
ヘンゼルとグレーテル
文字数:9,912 底本発行年:1949
一
まずしい木こりの男が、大きな森の近くにこやをもって、おかみさんとふたりのこどもとでくらしていました。
ふたりのこどものうち、男の子がヘンゼル、女の子がグレーテルといいました。
しがなくくらして、ろくろく歯にあたるたべものを、これまでもたべずに来たのですが、ある年、国じゅうが大ききんで、それこそ、日日のパンが口にはいらなくなりました。
木こりは、晩、
「おれたち、これからどうなるというんだ。 かわいそうに、こどもらをどうやってくわしていくか。 なにしろ、かんじん、やしなってやっているおれたちふたりの、くうものがないしまつだ。」
「だから、おまえさん、いっそこうしようじゃないか」と、おかみさんがこたえました。
「あしたの朝、のっけに、こどもたちをつれだして、森のおくのおくの、
「そりゃあ、おめえ、いけねえよ。」 と、木こりがいいました。
「そんなこたあ、おれにはできねえよ。 こどもらを森ん中へおきざりにするなんて、どうしたって、そんなかんがえになれるものかな。 そんなことしたら、こどもら、すぐと森のけだものがでてきて、ずたずたにひっつぁいてしまうにきまってらあな。」
「やれやれ、おまえさん、いいばかだよ。」
と、おかみさんはいいました。
「そんなことをいっていたら、わたしたち四人が四人、かつえ死にに死んでしまって、あとは
こうおかみさんはいって、それからも、のべつまくしたてて、いやおうなしに、ていしゅを、うんといわせてしまいました。
「どうもやはり、こどもたちが、かわいそうだなあ。」 と、ていしゅはまだいっていました。
ふたりのこどもたちも、おなかがすいて、よく寝つけませんでしたから、まま母が、おとっつぁんにむかっていっていることを、そっくりきいていました。 妹のグレーテルは、涙をだして、しくんしくんやりながら、にいさんのヘンゼルにむかって、
「まあどうしましょう、あたしたち、もうだめね。」 と、いいました。
「しッ、だまってグレーテル」と、ヘンゼルはいいました。 「おさわぎでない、だいじょうぶ、ぼく、きっとよくやってみせるから。」
こう妹をなだめておいて、やがて、親たちがねしずまると、ヘンゼルはそろそろ起きだして、うわぎをかぶりました。
そして、おもての戸の下だけあけて、こっそりそとへ出ました。
ちょうどお月さまが、ひるのようにあかるく照っていて、うちの前にしいてある白い
「いいから安心して、ゆっくりおやすみ。
神さまがついていてくださるよ。」
と、いいきかせて、自分もまた、
夜があけると、まだお日さまのあがらないうちから、もうさっそく、おかみさんは起きて来て、ふたりをおこしました。
「さあ、おきないか、のらくらものだよ。
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ヘンゼルとグレーテル - 情報
ヘンゼルとグレーテル
ヘンゼルとグレーテル
文字数 9,912文字
青空情報
底本:「世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人」小峰書店
1949(昭和24)年2月20日初版発行
1949(昭和24)年12月30日4版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
※原題の「HNSEL UND GRETEL」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「HANSEL UND GRETEL」としました。
入力:大久保ゆう
校正:浅原庸子
2004年6月16日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。
青空文庫:ヘンゼルとグレーテル