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かえるの王さま

原題:DER FROSCHKONIG ODER DER EISERNE HEINRICH

著者:グリム兄弟 Bruder Grimm

かえるのおうさま

文字数:4,950 底本発行年:1949
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序章-章なし

むかしむかし、たれのどんなのぞみでも、おもうようにかなったときのことでございます。

あるところに、ひとりの王さまがありました。 その王さまには、うつくしいおひめさまが、たくさんありました。 そのなかでも、いちばん下のおひめさまは、それはそれはうつくしい方で、世の中のことは、なんでも、見て知っていらっしゃるお日さまでさえ、まいにちてらしてみて、そのたんびにびっくりなさるほどでした。

さて、この王さまのお城のちかくに、こんもりふかくしげった森があって、その森のなかに一本あるふるいぼだいじゅの木の下に、きれいな泉が、こんこんとふきだしていました。 あつい夏の日ざかりに、おひめさまは、よくその森へ出かけて行って、泉のそばにこしをおろしてやすみました。 そして、たいくつすると、金のまりを出して、それをたかくなげては、手でうけとったりして、それをなによりおもしろいあそびにしていました。

ある日、おひめさまは、この森にきて、いつものようにすきなまりなげをして、あそんでいるうち、ついまりが手からそれておちて、泉のなかへころころ、ころげこんでしまいました。 おひめさまはびっくりして、そのまりのゆくえをながめていましたが、まりは水のなかにしずんだまま、わからなくなってしまいました。 泉はとてもふかくて、のぞいてものぞいても、底はみえません。

おひめさまは、かなしくなって泣きだしました。 するうちに、だんだん大きな声になって、おんおん泣きつづけるうち、じぶんでじぶんをどうしていいか、わからなくなってしまいました。

おひめさまが、そんなふうに泣きかなしんでいますと、どこからか、こうおひめさまによびかける声がしました。

「おひめさま。 どうなすったの、おひめさま。 そんなに泣くと、石だって、おかわいそうだと泣きますよ。」

おや、とおもって、おひめさまは、声のするほうをみまわしました。 そこに、一ぴきのかえるが、ぶよぶよふくれて、いやらしいあたまを水のなかからつきだして、こちらをみていました。

「ああ、水のなかのぬるぬるぴっちゃりさん、おまえだったの、いま、なにかいったのは。」 と、おひめさまは、なみだをふきながらいいました。 「あたしの泣いているのはね、金のまりを泉のなかにおとしてしまったからよ。」

「もう泣かないでいらっしゃい。 わたしがいいようにしてあげますからね。」

「じゃあ、まりをみつけてくれるっていうの。」

「ええ、みつけてあげましょう。 でも、まりをみつけて来てあげたら、なにをおれいにくださいますか。」

「かわいいかえるさん。」 と、おひめさまはいいました。 「おまえのほしいものなら、なんでもあげてよ。 あたしのきているきものでも、光るしんじゅでも、きれいな宝石ほうせきでも、それから金のかんむりでも。」

「いいえ、わたしはそんなものがほしくはないのです。 けれど、もしかあなたがわたしをかわいがってくだすって、わたしをいつもおともだちにして、あなたのテーブルのわきにすわらせてくだすって、あなたの金のお皿から、なんでもたべて、あなたのちいさいおさかずきで、お酒をのましていただいて、よるになったら、あなたのかわいらしいおとこのそばで、ねむってよいとおっしゃるなら、わたしは水のなかから、金のまりをみつけてきてあげましょう。」 と、かえるはいいました。

「ええ、いいわ、いいわ。 金のまりをとってきてくれさえすれば、おまえのいうとおり、なんでもやくそくしてあげるわ。」 と、おひめさまはこたえました。 そういいながら、心の中では、(かえるのくせに、にんげんのなかま入りしようなんて、ほんとうにずうずうしい、おばかさんだわ)と、おもっていました。

かえるは、でも、約束やくそくのとおり、水のなかにもぐって行きました。

序章-章なし
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かえるの王さま - 情報

かえるの王さま

かえるのおうさま

文字数 4,950文字

底本 世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人

青空情報


底本:「世界おとぎ文庫(グリム篇)森の小人」小峰書店
   1949(昭和24)年2月20日初版発行
   1949(昭和24)年12月30日4版発行
※原題の「DER FROSCHKNIG ODER DER EISERNE HEINRICH」は、ファイル冒頭ではアクセント符号を略し、「DER FROSCHKONIG ODER DER EISERNE HEINRICH」としました。
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
入力:大久保ゆう
校正:浅原庸子
2004年4月29日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:かえるの王さま

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