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食物として

著者:芥川龍之介

しょくもつとして - あくたがわ りゅうのすけ

文字数:429 底本発行年:1971
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著者:芥川 竜之介
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序章-章なし

金沢(かなざは)の方言(はうげん)によれば「うまさうな」と云ふのは「肥(ふと)つた」と云ふことである。 例へば肥つた人を見ると、あの人はうまさうな人だなどとも云ふらしい。 この方言は一寸(ちよつと)食人種の使ふ言葉じみてゐて愉快である。

僕はこの方言(はうげん)を思ひ出すたびに、自然と僕の友達を食物(しよくもつ)として、見るやうになつてゐる。

里見※(「弓+享」、第3水準1-84-22)(さとみとん)君などは皮造りの刺身(さしみ)にしたらば、きつと、うまいのに違ひない。 菊池(きくち)君も、あの鼻などを椎茸(しひたけ)と一緒(いつしよ)に煮(に)てくへば、脂(あぶら)ぎつてゐて、うまいだらう。 谷崎潤一郎(たにざきじゆんいちらう)君は西洋酒で煮てくへば飛び切りに、うまいことは確(たしか)である。

北原白秋(きたはらはくしう)君のビフテキも、やはり、うまいのに違ひない。 宇野浩二(うのかうじ)君がロオスト・ビフに適してゐることは、前にも何かの次手(ついで)に書いておいた。 佐佐木茂索(ささきもさく)君は串(くし)に通して、白やきにするのに適してゐる。

室生犀星(むろふさいせい)君はこれは――今僕の前に坐つてゐるから、甚だ相済(あひす)まない[#「甚だ相済(あひす)まない」は底本では「甚(あひす)だ相済まない」]気がするけれども――干物(ひもの)にして食ふより仕方がない。 然し、室生君は、さだめしこの室生君自身の干物を珍重(ちんちよう)して食べることだらう。 (昭和二年四月)

序章-章なし
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食物として - 情報

食物として

しょくもつとして

文字数 429文字

著者リスト:

底本 筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻

青空情報


底本:「筑摩全集類聚 芥川龍之介全集第四巻」筑摩書房
   1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
   1979(昭和54)年4月10日初版第11刷発行
入力:土屋隆
校正:松永正敏
2007年6月26日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:食物として

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