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ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記

著者:宮沢賢治

ペンネンネンネンネン・ネネムのでんき - みやざわ けんじ

文字数:26,562 底本発行年:1979
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

一、ペンネンネンネンネン・ネネムの独立

〔冒頭原稿数枚焼失〕のでした。 実際、東のそらは、お「キレ」さまの出る前に、琥珀こはく色のビールで一杯いっぱいになるのでした。 ところが、そのまま夏になりましたが、ばけものたちはみんなさわぎはじめました。

そのわけ〔十七字不明〕ばけもの麦も一向みのらず、大〔六字不明〕が咲いただけで一つぶも実になりませんでした。 秋になっても全くその通〔七字不明〕くりの木さえ、ただ青いいがばかり、〔八字不明〕飢饉ききんになってしまいました。

その年は暮れましたが、次の春になりますと飢饉はもうとてもひどくなってしまいました。

ネネムのお父さん、森の中の青ばけものは、ある日頭をかかえていつまでもいつまでも考えていましたが、急に起きあがって、

「おれは森へ行って何かさがして来るぞ。」 いながら、よろよろ家を出て行きましたが、それなりもういつまで待っても帰って来ませんでした。 たしかにばけもの世界の天国に、行ってしまったのでした。

ネネムのお母さんは、毎日目を光らせて、ため息ばかりいていましたが、ある日ネネムとマミミとに、

「わたしは野原に行って何かさがして来るからね。」 と云って、よろよろ家を出て行きましたが、やはりそれきりいつまで待っても帰って参りませんでした。 たしかにお母さんもその天国に呼ばれて行ってしまったのでした。

ネネムは小さなマミミとただ二人、寒さとえとにガタガタふるえてりました。

するとある日戸口から、

「いや、今日は。 私はこの地方の飢饉をたすけに来たものですがね、さあ何でもべなさい。」 と云いながら、一人の目のするどいせいの高い男が、大きなかごの中に、ワップルや葡萄ぶどうパンや、そのほかうまいものを沢山たくさん入れて入って来たのでした。

二人はまるで籠を引ったくるようにして、ムシャムシャムシャムシャ、沢山喰べてから、やっと、

「おじさんありがとう。 ほんとうにありがとうよ。」 なんて云ったのでした。

男は大へん目を光らせて、二人のたべるところをじっと見て居りましたがその時やっと口を開きました。

「お前たちはいい子供だね。 しかしいい子供だというだけでは何にもならん。 わしと一緒いっしょにおいで。 いいとこへ連れてってやろう。 もっとも男の子は強いし、それにどうもひざやかかとの骨が固まってしまっているようだから仕方ないが、おい、女の子。 おじさんとこへ来ないか。 一日いっぱい葡萄パンを喰べさしてやるよ。」

ネネムもマミミも何とも返事をしませんでしたが男はふいっとマミミをお菓子かしの籠の中へ入れて、

「おお、ホイホイ、おお、ホイホイ。」 と云いながらにわかにあわてだして風のように家を出て行きました。

何のことだかわけがわからずきょろきょろしていたマミミ〔一字不明〕、戸口を出てからはじめてわっと泣き出しネネムは、

「どろぼう、どろぼう。」 と泣きながらさけんで追いかけましたがもう男は森をけてずうっと向うの黄色な野原を走って行くのがちらっと見えるだけでした。 マミミの声が小さな白い三角の光になってネネムの胸にしみむばかりでした。

序章-章なし
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ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記 - 情報

ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記

ペンネンネンネンネン・ネネムのでんき

文字数 26,562文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 ポラーノの広場

親本 新修宮沢賢治全集 第九巻 童話

青空情報


底本:「ポラーノの広場」新潮文庫、新潮社
   1995(平成7)年2月1日発行
   1997(平成9)年5月25日3刷
底本の親本:「新修宮沢賢治全集 第九巻 童話」筑摩書房
   1979(昭和54)年7月15日初版第1刷発行
※〔〕内は、底本の注記です。
入力:土屋隆
校正:鈴木厚司
2010年2月1日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記

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