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虹の絵の具皿 (十力の金剛石)

著者:宮沢賢治

にじのえのぐざら - みやざわ けんじ

文字数:7,888 底本発行年:1969
著者リスト:
著者宮沢 賢治
底本: 銀河鉄道の夜
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序章-章なし

むかし、あるきりのふかい朝でした。

王子はみんながちょっといなくなったひまに、玻璃はりでたたんだ自分のおへやから、ひょいっと芝生しばふびおりました。

そして蜂雀はちすずめのついた青い大きな帽子ぼうしいそいでかぶって、どんどんこうへかけ出しました。

「王子さま。 王子さま。 どちらにいらっしゃいますか。 はて、王子さま」

と、年よりのけらいが、へやの中であっちをいたりこっちをいたりしてさけんでいるようすでした。

王子はきりの中で、はあはあわらって立ちどまり、ちょっとそっちをきましたが、またすぐなおって音をたてないようにつるぎのさやをにぎりながら、どんどんどんどん大臣だいじんの家の方へかけました。

芝生しばふの草はみな朝のきりをいっぱいにって、青く、つめたく見えました。

大臣だいじんの家のくるみの木が、きりの中から不意ふいに黒く大きくあらわれました。

その木の下で、一人ひとり子供こどもかげが、きりこうのお日様ひさまをじっとながめて立っていました。

王子は声をかけました。

「おおい。 お早う。 あそびに来たよ」

その小さなかげはびっくりしたように動いて、王子の方へ走って来ました。 それは王子と同じ年の大臣だいじんの子でした。

大臣だいじんの子はよろこんで顔をまっかにして、

「王子さま、お早うございます」ともうしました。

王子が口早にききました。

「お前さっきからここにいたのかい。 何してたの」

大臣だいじんの子が答えました。

「お日さまを見ておりました。 お日さまはきりがかからないと、まぶしくて見られません」

「うん。 お日様はきりがかかると、ぎんかがみのようだね」

「はい、また、大きな蛋白石たんぱくせきばんのようでございます」

「うん。 そうだね。 ぼくはあんな大きな蛋白石たんぱくせきがあるよ。 けれどもあんなに光りはしないよ。 ぼくはこんど、もっといいのをさがしに行くんだ。 お前もいっしょに行かないか」

大臣だいじんの子はすこしもじもじしました。

王子はまたすぐ大臣だいじんの子にたずねました。

「ね、おい。 ぼくのもってるルビーのつぼやなんかより、もっといい宝石ほうせきは、どっちへ行ったらあるだろうね」

序章-章なし
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虹の絵の具皿 - 情報

虹の絵の具皿 (十力の金剛石)

にじのえのぐざら (じゅうりきのこんごうせき)

文字数 7,888文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 銀河鉄道の夜

青空情報


底本:「銀河鉄道の夜」角川文庫、角川書店
   1969(昭和44)年7月20日改版初版発行
   1991(平成3)年6月10日改版65版
入力:土屋隆
校正:石橋めぐみ
2007年7月24日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:虹の絵の具皿

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