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ありときのこ

著者:宮沢賢治

ありときのこ - みやざわ けんじ

文字数:1,429 底本発行年:1957
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

こけいちめんに、きりがぽしゃぽしゃって、あり歩哨ほしょうてつ帽子ぼうしのひさしの下から、するどいひとみであたりをにらみ、青く大きな羊歯しだの森の前をあちこち行ったり来たりしています。

こうからぷるぷるぷるぷる一ぴきのあり兵隊へいたいが走って来ます。

まれ、だれかッ」

だい百二十八聯隊れんたい伝令でんれい!」

「どこへ行くか」

「第五十聯隊 聯隊本部ほんぶ

歩哨はスナイドルしき銃剣じゅうけんを、こうのむねななめにつきつけたまま、そのの光りようやあごのかたち、それから上着うわぎそで模様もようくつのぐあい、いちいちくわしく調しらべます。

「よし、通れ」

伝令はいそがしく羊歯しだの森のなかへはいって行きました。

きりつぶはだんだん小さく小さくなって、いまはもう、うすいちちいろのけむりにわり、草や木の水をいあげる音は、あっちにもこっちにもいそがしく聞こえだしました。 さすがの歩哨もとうとうねむさにふらっとします。

ひきあり子供こどもらが、手をひいて、何かひどくわらいながらやって来ました。 そしてにわかにこうのならの木の下を見てびっくりして立ちどまります。

「あっ、あれなんだろう。 あんなところにまっ白な家ができた」

「家じゃない山だ」

「昨日はなかったぞ」

兵隊へいたいさんにきいてみよう」

「よし」

二疋の蟻は走ります。

「兵隊さん、あすこにあるのなに?」

「なんだうるさい、帰れ」

「兵隊さん、いねむりしてんだい。 あすこにあるのなに?」

「うるさいなあ、どれだい、おや!」

「昨日はあんなものなかったよ」

「おい、大変たいへんだ。 おい。 おまえたちはこどもだけれども、こういうときには立派りっぱにみんなのおやくにたつだろうなあ。 いいか。 おまえはね、この森をはいって行ってアルキル中佐ちゅうさどのにお目にかかる。 それからおまえはうんと走って陸地測量部りくちそくりょうぶまで行くんだ。 そして二人ともこううんだ。 北緯ほくい二十五東経とうけいりんところに、目的もくてきのわからない大きな工事こうじができましたとな。 二人とも言ってごらん」

北緯ほくい二十五東経とうけいりんところ目的もくてきのわからない大きな工事こうじができました」

「そうだ。 では早く。 そのうち私はけっしてここをはなれないから」

序章-章なし
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ありときのこ - 情報

ありときのこ

ありときのこ

文字数 1,429文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 セロ弾きのゴーシュ

青空情報


底本:「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫、角川書店
   1957(昭和32)年11月15日初版発行
   1967(昭和42)年4月5日10版発行
   1993(平成5)年5月20日改版50版発行
初出:「天才人」
   1933(昭和8)年3月号
※初出時の表題は「朝に就ての童話的構図」。
入力:土屋隆
校正:砂場清隆
2007年1月6日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:ありときのこ

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