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ざしき童子のはなし

著者:宮沢賢治

ざしきぼっこのはなし - みやざわ けんじ

文字数:1,814 底本発行年:1957
著者リスト:
著者宮沢 賢治
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序章-章なし

ぼくらの方の、ざしき童子ぼっこのはなしです。

あかるいひるま、みんなが山へはたらきに出て、こどもがふたり、にわであそんでおりました。 大きな家にだれもおりませんでしたから、そこらはしんとしています。

ところが家の、どこかのざしきで、ざわっざわっとほうきの音がしたのです。

ふたりのこどもは、おたがいかたにしっかりと手を組みあって、こっそり行ってみましたが、どのざしきにもたれもいず、かたなはこもひっそりとして、かきねのひのきが、いよいよ青く見えるきり、たれもどこにもいませんでした。

ざわっざわっと箒の音がきこえます。

とおくの百舌もずの声なのか、北上きたかみ川のの音か、どこかでまめにかけるのか、ふたりでいろいろ考えながら、だまっていてみましたが、やっぱりどれでもないようでした。

たしかにどこかで、ざわっざわっと箒の音がきこえたのです。

も一どこっそり、ざしきをのぞいてみましたが、どのざしきにもたれもいず、ただお日さまの光ばかりそこらいちめん、あかるくっておりました。

こんなのがざしき童子ぼっこです。

大道だいどうめぐり、大道めぐり」

一生けんめい、こうさけびながら、ちょうど十人の子供こどもらが、両手りょうてをつないでまるくなり、ぐるぐるぐるぐる座敷ざしきのなかをまわっていました。 どの子もみんな、そのうちのお振舞ふるまいによばれて来たのです。

ぐるぐるぐるぐる、まわってあそんでおりました。

そしたらいつか、十一人になりました。

ひとりも知らない顔がなく、ひとりもおんなじ顔がなく、それでもやっぱり、どう数えても十一人だけおりました。 そのふえた一人がざしきぼっこなのだぞと、大人おとなが出て来ていました。

けれどもたれがふえたのか、とにかくみんな、自分だけは、どうしてもざしきぼっこでないと、一生けん命って、きちんとすわっておりました。

こんなのがざしきぼっこです。

それからまたこういうのです。

ある大きな本家では、いつもきゅうの八月のはじめに、如来にょらいさまのおまつりで分家の子供らをよぶのでしたが、ある年その一人の子が、はしかにかかってやすんでいました。

「如来さんのまつりへ行きたい。 如来さんの祭りへ行きたい」と、その子はていて、毎日毎日いました。

まつばすから早くよくなれ」本家のおばあさんが見舞みまいに行って、その子の頭をなでて言いました。

その子は九月によくなりました。

そこでみんなはよばれました。 ところがほかの子供こどもらは、いままで祭りを延ばされたり、なまりうさぎを見舞いにとられたりしたので、なんともおもしろくなくてたまりませんでした。

「あいつのためにひどいめにあった。 もう今日は来ても、どうしたってあそばないぞ」と約束やくそくしました。

「おお、来たぞ、来たぞ」みんながざしきであそんでいたとき、にわかに一人がさけびました。

「ようし、かくれろ」みんなはつぎの、小さなざしきへかけみました。

そしたらどうです。 そのざしきのまん中に、今やっと来たばっかりのはずの、あのはしかをやんだ子が、まるっきりやせて青ざめて、きだしそうな顔をして、新しいくまのおもちゃをって、きちんとすわっていたのです。

「ざしきぼっこだ」一人が叫んでにげだしました。 みんなもわあっとにげました。 ざしきぼっこは泣きました。

こんなのがざしきぼっこです。

また、北上きたかみ川の朗妙寺ろうみょうじふちわたもりが、ある日わたしに言いました。

旧暦きゅうれき八月十七日のばん、おらはさけのんで早くた。

序章-章なし
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ざしき童子のはなし - 情報

ざしき童子のはなし

ざしきぼっこのはなし

文字数 1,814文字

著者リスト:
著者宮沢 賢治

底本 セロ弾きのゴーシュ

青空情報


底本:「セロ弾きのゴーシュ」角川文庫、角川書店
   1957(昭和32)年11月15日初版発行
   1967(昭和42)年4月5日10版発行
   1993(平成5)年5月20日改版50版発行
初出:「月曜」
   1926(大正15)年2月号
入力:土屋隆
校正:田中敬三
2008年3月25日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:ざしき童子のはなし

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