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浅草公園 或シナリオ

著者:芥川龍之介

あさくさこうえん - あくたがわ りゅうのすけ

文字数:7,018 底本発行年:1971
著者リスト:
著者芥川 竜之介
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序章-章なし

浅草あさくさ仁王門におうもんの中にった、火のともらない大提灯おおじょうちん 提灯は次第に上へあがり、雑沓ざっとうした仲店なかみせを見渡すようになる。 ただし大提灯の下部だけは消え失せない。 門の前に飛びかう無数のはと

雷門かみなりもんから縦に見た仲店。 正面にはるかに仁王門が見える。 樹木は皆枯れ木ばかり。

仲店の片側かたがわ 外套がいとうを着た男が一人ひとり、十二三歳の少年と一しょにぶらぶら仲店を歩いている。 少年は父親の手を離れ、時々玩具屋おもちゃやの前に立ち止まったりする。 父親は勿論こう云う少年を時々叱ったりしないことはない。 が、まれには彼自身も少年のいることを忘れたように帽子屋ぼうしやの飾り窓などを眺めている。

こう云う親子の上半身じょうはんしん 父親はいかにも田舎者いなかものらしい、無精髭ぶしょうひげを伸ばした男。 少年は可愛かわいいと云うよりもむしろ可憐な顔をしている。 彼等のうしろには雑沓した仲店。 彼等はこちらへ歩いて来る。

斜めに見たある玩具屋おもちゃやの店。 少年はこの店の前にたたずんだまま、綱をのぼったりりたりする玩具の猿を眺めている。 玩具屋の店の中には誰も見えない。 少年の姿は膝の上まで。

綱を上ったり下りたりしている猿。 猿は燕尾服えんびふくの尾を垂れた上、シルク・ハットを仰向あおむけにかぶっている。 この綱や猿の後ろは深い暗のあるばかり。

この玩具屋のある仲店の片側。 猿を見ていた少年は急に父親のいないことに気がつき、きょろきょろあたりを見まわしはじめる。 それから向うに何か見つけ、その方へ一散いっさんに走ってく。

父親らしい男の後ろ姿。 ただしこれも膝の上まで。 少年はこの男に追いすがり、しっかりと外套の袖をとらえる。 驚いてふり返った男の顔は生憎あいにく田舎者いなかものらしい父親ではない。

序章-章なし
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浅草公園 - 情報

浅草公園 或シナリオ

あさくさこうえん あるシナリオ

文字数 7,018文字

著者リスト:

底本 芥川龍之介全集6

親本 筑摩全集類聚版芥川龍之介全集

青空情報


底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1998年4月20日公開
2004年3月7日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:浅草公園

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