黄いろのトマト
著者:宮沢賢治
きいろのトマト - みやざわ けんじ
文字数:7,847 底本発行年:1989
博物局十六等官
キュステ誌
私の町の博物館の、大きなガラスの
生きてたときはミィミィとなき
小さいときのことですが、ある朝早く、私は学校に行く前にこっそり
「お早う。 ペムペルという子はほんとうにいい子だったのにかあいそうなことをした。」
その時窓にはまだ厚い茶いろのカーテンが引いてありましたので
「お早う。 蜂雀。 ペムペルという人がどうしたっての。」
蜂雀がガラスの向うで
「ええお早うよ。 妹のネリという子もほんとうにかあいらしいいい子だったのにかあいそうだなあ。」
「どうしたていうの話しておくれ。」
すると蜂雀はちょっと口あいてわらうようにしてまた云いました。
「話してあげるからおまえは
私は本の入ったかばんの上に座るのは一寸困りましたけれどもどうしてもそのお話を聞きたかったのでとうとうその通りしました。
すると蜂雀は話しました。
「ペムペルとネリは毎日お父さんやお母さんたちの働くそばで遊んでいたよ〔以下原稿一枚?なし〕
その時
『さようなら。 さようなら。』 と云ってペムペルのうちのきれいな木や花の間からまっすぐにおうちにかえった。
それから
二人で小麦を粉にするときは僕はいつでも見に行った。
小麦を粉にする日ならペムペルはちぢれた
そのときぼくはネリちゃん。 あなたはむぐらはすきですかとからかったりして飛んだのだ。 それからもちろんキャベジも植えた。
二人がキャベジを
ペムペルがキャベジの太い根を
そして二人はたった二人だけずいぶんたのしくくらしていた。」