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藍色の蟇

著者:大手拓次

あいいろのひき - おおて たくじ

文字数:26,320 底本発行年:1965
著者リスト:
著者大手 拓次
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序章-章なし

藍色の蟇

森の宝庫の寝間ねま

藍色の蟇は黄色い息をはいて

陰湿の暗い暖炉のなかにひとつの絵模様をかく。

太陽の隠し子のやうにひよわの少年は

美しい葡萄のやうな眼をもつて、

行くよ、行くよ、いさましげに、

空想の猟人かりうどはやはらかいカンガルウの編靴あみぐつに。

陶器の鴉

陶器製のあをいからす

なめらかな母韻をつつんでおそひくるあをがらす、

うまれたままの暖かさでお前はよろよろする。

くちばしの大きい、眼のおほきい、わるだくみのありさうな青鴉あをがらす

この日和のしづかさを食べろ。

しなびた船

海がある、

お前の手のひらの海がある。

いちごの実の汁を吸ひながら、

わたしはよろける。

わたしはお前の手のなかへ捲きこまれる。

逼塞ひつそくした息はおなかの上へ墓標はかじるしをたてようとする。

灰色の謀叛よ、お前の魂を火皿ほざらしんにささげて、

清浄に、安らかに伝道のために死なうではないか。

黄金の闇

南がふいて

鳩の胸が光りにふるへ、

わたしの頭は醸された酒のやうに黴の花をはねのける。

赤い護謨ごむのやうにおびえる唇が

ちからなげに、けれど親しげに内輪な歩みぶりをほのめかす。

わたしは今、反省と悔悟の闇に

あまくこぼれおちる情趣を抱きしめる。

白い羽根蒲団の上に、

産み月の黄金わうごんの闇は

悩みをふくんでゐる。

槍の野辺

うす紅い昼の衣裳をきて、お前といふ異国の夢がしとやかにわたしの胸をめぐる。

執拗な陰気な顔をしてる愚かな乳母うば

うつとりと見惚れて、くやしいけれど言葉も出ない。

古い香木のもえる煙のやうにたちのぼる

序章-章なし
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藍色の蟇 - 情報

藍色の蟇

あいいろのひき

文字数 26,320文字

著者リスト:
著者大手 拓次

底本 世界の詩28 大手拓次詩集

青空情報


底本:「世界の詩 28 大手拓次詩集」彌生書房
   1965(昭和40)年10月25日初版発行
   1981(昭和56)年6月5日7版発行
※底本では一行が長くて二行にわたっているところは、二行目が1字下げになっています。
入力:湯地光弘
校正:丹羽倫子
1999年10月30日公開
2005年11月29日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。

青空文庫:藍色の蟇

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